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数年まえに手放してしまったアポジーディーバは5年使いましたし、現用のB&WのSS-25は8年目ですが一番長く使ったスピーカはグッドマンのAXIOM-80でした。いろいろな動機が重なって私は1968年10月に最初の80を2本買ったのです。1987年までの20年間は自家用スピーカと言えばアクシオム-80でありました。アンプ設計に手を染めた最大の理由はアクシオム-80を鳴らすためであったのです。そういう方は何人もおられるようです。今日、一家を成したアンプ設計家のその多くはこのスピーカになんらかの啓示を受けたものと拝察しております。蛇足ながら20年ほど前に突如として現れた復刻板アクシオム-80はオリジナルとはフレームの材質、コーンの構造が全く異なっていてこれは似て非なるものでありましょう。このスピーカには様々な顔があります。80の愛好者にはスコーンと抜けるリアルな音をもってこのスピーカの本領とみなす流派と、真綿で弦を擦るがごとき耽美的音調をその本質と見なす流派があります。私はその中間でありますがいずれにせよ人の様々な音への思いをすべて受け入れる深遠なる懐の深さがこのスピーカにはあります。トランジスタアンプは不可と言う人もおられますが一概にそうでもありません。BBCモニタでありますが英国内での評価のほどは良く知りません。原設計は戦時中だと聞き及んでおります。ボイト、ラウザーとはかなり性格が異なるようで日本には1950年代半ばから入っています。良く知られているように故瀬川冬樹氏は45シングルで鳴らされたこのスピーカを生涯理想の音とされておられたようです。このスピーカの設計者がその後作ったスピーカは多々ありますがそのどれもが一聴して柔らかな音を出しますから本来の方向はリアル派とは異なるのでしょう。低域共振点は20ヘルツ台で大変に低く、エッジ、ダンパのコンプライアンスが高い割には最大振幅に制限があるためにアナログ時代は極めて使いにくいユニットでした。ピックアップ系の共振が問題にならないデジタル時代の環境では大変使いやすくなっています。

写真1

写真2

写真3

写真1は横から眺めた全景であります。写真2はダンパー部、写真3はエッジ部であります。御覧のように普通のエッジやダンパーとは全然異なります。これはベークライトで出来ていて正式名称はDuplex Cantilever Suspensionです。同じ設計者のジョーダンワッツモデュールユニットやオーディオ&デザインのチタンコーンユニットは、ダンパー部はベリリウム銅の細い棒で出来ていました。アクシオム80を選別する際にはボイスコイルに微弱な正負のDC電圧を印加してそれぞれの変位量を調べればよろしい。いろいろな使い方がありますが一番無難なのは低域に別途大型ウーファを追加した2ウエイでありましょう。適切なウーファーの選択は困難ですが今日の水準でも十二分に満足できるレベルになります。150〜200Hzで繋げばよろしい。1本使用ARU箱の音と2本ARU箱や4本ARU箱とは全然音が異なります。箱にユニットを取り付ける際には決して締め過ぎないことが肝要です。むろんフレームは大変頑丈ですからどんなに締め過ぎても変形することはありませんがバッフル面に軽くついている程度にする方が音がよろしいのです。アンプも同様で、あまり締め付けトルクを与えない方が良い箇所は沢山あります。かつてアンプ研究家の辰口肇氏はウーファーのエッジ、ダンパーを糸吊りに変更した理由を精密秤に例えて説明しておられましたが正しく同感でそれは80にも言えることでありました。長い音道をもつホーンスピーカでもそうかもしれませんが、アクシオム-80を使っていると空気の持つ一筋縄では行かないさまざまな性質に気付いて森羅万象の本質に思いを巡らすのです。ことは空気に限りません。電流の流れ方もそうでしょう。常識的にはスピーカケーブルの抵抗値は低い方が良いのですがそうでもないことが多いことは皆さんもよく御承知のことと存じます。とくにこの80はその最たるものでしょう。ラウザーユニットとは異なってインピーダンス変動が大きく、常識が通用しないことは驚くべきものがあります。単発使用では定電流駆動に近い特性のアンプがベストなのですが2発、4発ではそうではありません。近いうちに指定4発箱に入れたシステムをつくる予定ですがアンプは新たに作る必要があるでしょう。ドイツの業務システムにはトーンゾイレ型という形式があります。もう撤去されましたが近くにある陸上競技場には長らくドイツテレフンケン社のメタルコーンをいくつも縦にならべた全高10m以上の柱のような全天候型スピーカがありました。あの「永田秀一」さんがJRC日本無線の音響部門の顧問をされておられた時に全国何ケ所かにテレフンケンのこのシステムが導入されました。蛇足ながら当時のテレフンケン製専用アンプはEL-156PPでしたが国内では永田さんの設計でこれを東芝の6GB8に置き換えたものが主に使用されていました。東京オリンピックの時の競技場のPAシステムは永田秀一さんが手掛けたもののようです。さてトーンゾイレ形式は昔RCA社にもあったようですが多数のスピーカを並列使用する際には一番合理的な方法でしょう。80を多数使用する時には普通はトーンゾイレタイプが思い浮かぶものです。でも今回はオリジナルの設計に従いました。2発指定箱の経験からいってもステレオイメージは劣ると思いますが音場再現性がすべてではありません。今はなぜか音場再現性が重視されすぎています。かく言う私も音場再生大好き人間ですが、心のどこかで手に取るように音源の位置が分かることはむしろ不自然ではないかと思うことがあります。実際の演奏会場では目をつぶって楽器の位置を当てることは困難ですから。

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