「素敵な装置3」を書いているのは平成15年の新春です。1及び2はもう2年近く書き込み更新していませんでした。1と2の内容は古いものですからどうかそのおつもりでお読みください。
使用スピーカからB&WのSS-25が消えてもう1年近く経過しました。いまはアキシオム80の4連装とKEFのLS5-1Aが主力でそれに加えてマンガーユニットを使ったステラエレガンスもあります。映像系はジンガリですが近いうちにWEの大型ドライバユニット594Aを使用した2ウエイも稼動します。そういえば手元にはハートレーの10インチフルレンジスピーカ220MSユニットもあって、いま修復中のオリジナル箱が戻るとホルトンシステムが聴けるようになります。ハートレーは今はなぜか完全に忘れ去られていますが個人的にはWE以上、アメリカのスピーカでは最高峰だと考えます。その理由は色々ありますがともかく私好みなのであります。ただしこれくらいナゾの多いメーカも少ないでしょう。ミシガン州にあってほとんど個人企業に近くそのユニットの種類もたいそう多いのですがその詳細は判然としないものです。米誌でも取り上げられたことは少なく、杳として情報が少ないことはあの英ボイトと似ています。
有名なマークレビンソンのHQDシステムはハートレー、QUAD, DECCA の略でありますがこれに使われたハートレーの24インチウーファは素晴らしいものでハイスピードな切れ込みと余韻、豊かさが両立した他に類なき音がするのです。これを低域に用いたコンサートマスタは中域ユニットとして前述の220MSの上級モデル220MSGユニットを使っていてこれくらい良いスピーカはありません。220MSGユニットはダブルボイスコイルを特徴としており非常に高価でありました。昔、アキシオム80が¥26、500だったころタンノイのモニタ-ゴールド15は7万7千円ほどでしたがその頃220MSGは7万円近い価格でした。その価格差は1万円あるかなきかで220MSGはまさに雲の上の存在でした。片や10インチフルレンジ、もう一つは立派な15インチ同軸2ウェイですからまあ普通は15インチのモニターゴールドを買うでしょう。220シリーズは1960年前後に発表されており日本には知る限り1965年には輸入されておりました。ハートレーは1978年頃まであったようですが最後の日本代理店はあの名門シュリロ貿易で、このこと一つからもハートレー社の格の高さが推測できます。シュリロ貿易はハッセルブラッドの輸入元でありますが戦後間もなくから日本で貿易業務をしているようです。聞くところによると本社はカナダだそうであります。一時期はタンノイもSMEもグットマンもQUADもシュリロ扱いでした。そう言えばあのLINNのLP-12も最初はシュリロが輸入していたのです。1976年の当店の創業時にはシュリロ扱いのLP-12がありましたがターンテーブルの加工精度が悪くてうねうねと上下に揺れながら回っていました。会社が出来たばかりでいろいろ余裕がなかったのでしょうね、材料を十分エージングしないまま旋盤に掛けていたのだと考えます。蛇足ながら現在のものはまるで別ものですので御安心を。マークレビンソンもRFの前はシュリロでした。シュリロ扱いのLNP-2は数台だと聞き及んでいますがモジュールはバウエン製ですしボリウムもスペクトロールではなくウォータ社でした。国内に入るまえのレビンソンのプリアンプは米誌で見る限り高さが2倍近くあり、見なれたLNP-2とはかなり印象が異なります。バウエン社のプリアンプもシュリロ貿易が輸入していましたが横行スライドボリウムですし全体に作りが安直で魅力に欠けました。定価は28万円前後と記憶しています。これは手元にしばらくありました。良い音でしたが典型的な技術屋さんの作品でしょう。ながながと脱線してしまいましたがコバルト不足に起因したアルニコ磁石の危機で最も致命的な打撃を受けたメーカの一つがハートレーでしょう。それ以後姿を消しました。
ただしマグネットをフェライトに変えて今日でもまだ細々と存続している可能性はあるようです。わたくしは1968年にCMラボラトリー社のTRアンプと組み合わされた音を聞いたことがございます。そういえばCMラボラトリーのパワーアンプのデザインは素晴らしいですね。ほぼその頃、日本コロンビアのデジタル録音機及びデジタル録音システムで有名な技術者Aさんがお使いになられていましたが知る限り雑誌等での使用例はそれくらいでしょう。私のすぐ近所にお住まいのM先生はコンサートマスタ」をお持ちになられておられますがこれは東京の、照明で有名なY電気に寂しく売れ残っていたものを信じられぬほどの安価で入手されたそうです。もう25年以上前のことですが残り物に福とはこのことでしょう。当時はJBLにあらずはスピーカにあらずという風潮でしたから。当時のJBLで今日価値を維持しているものがどれだけあるでしょうか。さて220MSGをフルレンジとして使い、さらに超高域用にツィータを追加したものがホルトンです。わたくしは今から23年前に国内最後の在庫のホルトンAをシュリロ貿易から仕入れたことがありました。店で2ヶ月ほど使いましたが手放したことを悔やんだものです。ただしこれは220MSGではなく220MSでありました。手放した理由の一端もそれです。ホルトンにもいろいろなタイプがあるようです。でも昨年秋に縁あってどのタイプのものか判りませんがまた入手できました。シュリロ扱いのTypeAと比べてこれは箱の形状が全く異なりました。220シリーズはアキシオム80と同じくその評価は毀誉褒貶に満ちていました。使い方も大変難しく、普通はややドライな音がするものです。基本的にあるていどのパワーを持つ真空管のPPアンプが適するようです。わたくしはこのスピーカのために6336Bのトランス付きPPアンプを作りました。2003年1月末に発売される管球王国27号に掲載予定のそのアンプの最終的な音決めは主として220MSで行ったのです。いかにこれに惚れ込んでいるか御想像ください。アキシオム80もそうですがこう言った難しいフルレンジで音決めすると広い土俵で通用しやすいアンプが出来るものです。
これが220MS?でダンパーは蝶ダンパー、fゼロは比較的高めです。コーンもエッジも申し分ないコンデションを維持しています。コーンはトライポリマ−です。以前持っていたユニットとは細部において異なりますしこれはダブルボイスコイルの220MSGの可能性がございます。220は幾つかのバージョンがありマグネットサスペンション付きのMS、それにマグネットサスペンションでダブルボイスコイルのMSGがございます。マグネットサスペンションの詳細は知りませんがおよその推測は出来ます。米国特許が出ていたはずですからその気になればわかるでしょう。ややこしいことに220にもダブルボイスコイル付きがあるようですし、極端に言えば1個ごとに異なりその詳細は不明で外観を一瞥しただけではどのモデルか判別は困難なのです。これが普通のものなのかダブルボイスコイルなのか御存知の方がいらっしゃいましたら御一報ください。箱はいま姫路のピアノ修理業者に預けていて修復中です。
40年近く前になりますが仏キャバス社のユニットにマグネットとフレームが220MSと似ているものがありました。むろん同じものではありませんがどこか血のつながりを感じさせます。220のマグネットは英国製です。欧米のユニットは底の方でつながりがあるようです。十数年前にファンガティインダストリアの山崎さんが当時はオンキョーに居られた某氏と渡仏された折り、お土産だといわれてフォーカル社の小型ユニットを見せていただいたことがあります。それはフェライトマグネットでしたがただならぬ素質を感じました。その後B&WのSS-25を入手したとき、そのメインユニットはフォーカル製だと直感いたしました。その後そのことをなにかの時にラジオ技術誌で触れたことがございます。同じくSS-25を使用されている五十嵐さんがことの真偽をM社に尋ねたところ否定されたそうですがしばらく経ってからそれは正しいということになったようでした。蛇足ながらあの付属のスターリングシルバー線はフランス製でありそれをB&W 社に推奨したのは他でもないジャン平賀氏だそうです。
220MS?(MSGの可能性もある)ユニットはアキシオム80に比べてやや聴感上の能率は低く感じます。それは高低のバランスがとれている証拠で、1本使用でも大編成オーケストラの雰囲気をよく再現します。アキシオム-80は1本ではなかなかそうはいきません。これは今は4本システムですがこれくらい優れたものはないでしょう。とくに能率の良さは圧倒的です。以前アポジーのディーバを使用していた時マッキントッシュのMC-1000のメータを時々振り切って使っていましたがアポジーのディーバに1KWを入力した時の音量をアキシオム80の4本システムは1W以下で楽々と出すのです。私はそうとうな大音量派ですがこのスピーカに関しては1W以上の出力のアンプは必要としません。WEの555+15Aホーンは能率は50%です。能率50%とは1W入力で0.5音響ワットを発生することであります。ちなみに、同じ条件とは言い難いと思いますがフル編成オーケストラの音響出力は1W強ていどだそうです。同様にラウザーのTP1ホーンシステムは公称の能率は50%でした。フロントホーンとバックロードホーンを組み合わせたTP1は私もよく存じていますがこれが50%も効率があるとはとても信じられません。555+15Aと比べると悪く感じます。アキシオム80の4本システムはラウザーのTP1より遥かに高効率でそれは信じられぬほどです。デッカのデコラ電蓄やテレフンケンを初めとするドイツ製ステレオのスピーカはスピーカの多数使用が特徴でした。東工大の西巻先生はフルレンジスピーカの4本並列使用を強く推奨されておられたとは五十嵐一郎氏の言です。1950年頃のラ技にそれが出ているそうですが残念ながら私はその論文は見ていません。おそらく軸をずらせた多数配置は効率良く空気を震わせることが出来るのでしょう。今の設計思想とは全然異なるところで出来ていて、現実にはあり得ないはずの非クラッシック音楽における不自然な人工的音像定位を気にされる方には不向きでありますしまたそういう方々には理解不可能なスピーカかもしれません。それはともかく大編成オーケストラや声楽曲などでの唖然とする自然な空間再現力は全く別次元です。
下記の写真はその80の4本箱です。誤解なきようにお願いしたいのですがこれはオリジナル設計図通りのもので私はいっさい手を加えてはおりません。多分あのジョーダン氏の設計だと思います。取り扱い説明書には1本、2本用、それに加えてこの4本用の図面が出ていました。ただしこれにはARU は付けていません。なくても特性はほとんど変わりませんし音も無い方が良いでしょう。岡山理科大学のHPを深く深く探していけばこのスピーカそのものの実測インピーダンスデータがでています。かなりの識者でもこの箱を存じない方が多く、過去の伝承はオーディオの分野でも断ち切られているような気がします。私は昔、昭和43年に大阪日本橋にある河口無線で一度だけこの箱を見た記憶がありますがあれはおそらく進工舎のものだったと思います。ずっと以前に大阪のSさんが当時の電波科学誌に80を多数(6本だったか8本だったか忘れましたが)、組み込んだ複雑な多面球体箱システムを発表されておられました。箱はいまは某大学にあるそうですのでぜひ一度聴きたいものです。
できるまでに2年掛かかりましたが箱の材質はカエデです。単板だけでは変型するのでカエデ単板とカエデ修正材、それにカエデ合板を組み合わせています。発注先は倉敷の民芸家具店ですが当時家具作家としてまだ無名で修行中の方が製作されたそうであります。複雑きわまりない作りですが大変良い仕上がりでしょう。いまは特注箱をお願い出来る工房が少なくなりました。